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岐路に立つ南アの政権政党「ANC」 総選挙で議席過半数に届かず マンデラ大統領誕生の栄光から30年

深浦サブロー

YOU TUBE First Post より South African Election Results: ANC gets 159 Seats, Loses Majority | Vantage with Palki Sharma - YouTube
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南アフリカ共和国の政党、アフリカ民族会議(ANC)は、1994年4月、人種差別政策(アパルトヘイト)を終焉に導いたネルソン・マンデラ氏を同国初の黒人大統領として輩出した、輝かしい歴史を持つ。それから30年、5月29日に行われた同国の総選挙で過半数の議席を獲得できず、ANCの単独政権は幕を閉じることになった。


ANCの支持率低下は、端的にいえば貧困問題の深刻化と、経済の停滞(というよりは低迷)にある。相次ぐ大統領やその周辺の汚職に、嫌気がさした有権者も多かっただろう。立て直しは容易ではない。


議会は総選挙の結果発表(6月2日)から14日以内に大統領を選出しなければならない。
ANCは連立政権をつくらざるを得ない状況だ。


議会は全400議席ある。ANCは159議席となり、前回2019年の総選挙から71議席減らした。最大野党の「民族同盟」(略称DA)は87議席。中道左派の政策を掲げ、ANCとの連立協議に前向きだと言われている。


BBCの報道によると、DAはANCが主要政策としている黒人に対する経済参加促進政策と、国民医療制度の導入には反対している。一方、ANCは、この2点は譲れず、交渉の対象ではないとの立場だという。連立協議は難航が予想される。
与党ANCが初の過半数割れ、連立交渉へ 南アフリカ総選挙 - BBCニュース


(黒人=BLACK PEOPLEに対する経済参加促進政策は、公的機関と一定規模以上の民間企業に人種構成比を反映した、黒人(有色人種)の雇用を求めるもので、ビジネス界に支持者が多いDAは、その適用拡大に反対者が多いといわれる。)


注目されるのは、ジェイコブ・ズマ前大統領が結成した新党の「民族の槍」(MK)」が58議席を獲得したこと。BBCによると、2018年の大統領選で争ったラマポーザ氏が党首であるうちは交渉しないと表明している。


党名「民族の槍」は、ANCが武力闘争路線をとっていたころの軍事組織名にちなんだもの。ズマ氏は同党から立候補する意向だったが、同国の憲法裁判所(最高裁に相当)が、法廷侮辱罪で禁錮刑となったズマ氏には立候補資格がないとの決定を下したため、立たなかったいきさつがある。


急進・左派政党の「経済的解放の闘士」(EFF)は39議席だった。総選挙では白人所有土地の強制収容を掲げた。黒人は南アフリカの人口の80%を占めるが、黒人が保有する土地は7%にとどまる。


土地の強制収容は、そこを突いたものだが、南アフリカの貧富の差は、白人と黒人の格差という面と、富裕になった黒人支配層と、貧困のままに置かれている大多数の黒人の格差という面がある。


一例を挙げれば、ズマ氏は大統領時代の2014年3月、同国の公的権力監視機関の調査で、所有する邸宅に、巨額の公費を投じて、プールや来客用住居、円形劇場、鶏舎、家畜用のおり、プライベートの医療施設などを建設したことが発覚した。この他、在任中に数々の汚職疑惑が持ち上がり、2018年2月にはANCがズマ氏を罷免することを決め、大統領辞任に至った。

ANCの闘士から実業家になったラマポーザ大統領自身も、2020年、所有する農場に現金で保管していた400万ドル(約6億2400万円)を強盗に奪われそうになった。南ア共和国では「ファームゲート」事件として知られるが、この事件で、大統領弾劾の危機に陥った。


同国の経済停滞は、重要インフラの電力事情に表れている。設備の老朽化や燃料不足のため慢性的な電力不足に陥っており、計画停電が行われている。失業率は高く、南アフリカ全体の失業率は32.9%にのぼる。首都ヨハネスバーグでは殺人、強盗、性犯罪の発生件数が世界の都市の中でも多く、世界一危ない都市と言われている。
電力事情は改善傾向、発電所の改修に注力(南アフリカ共和国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ


南アフリカは、昨年12月、パレスチナに侵攻したイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、それを受けてICJが1月26日(現地時間)、暫定措置命令を発出するなど、国際社会では、一定の存在感を示している。それとは裏腹に国内政治は大きな岐路に立っている。

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