大間違い、コメ農家「時給10円」を広めた朝日新聞の功罪 高米価でも赤字なら田んぼを貸した方がいい
「時給10円」の元は、農水省の統計「コメ農家の農業経営収支、令和4年(2022年)」だ。「農業所得1万円」を労働時間1,000時間で割って「時給10円」と言っている。令和5年(2023年)は農業所得9万7,000円なので「時給97円」になった。
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最初に断っておくが、筆者サブローは日本のコメを守るためには少々高いコメを食べてもいいと思っている。
それにしても、コメが高止まりしているのに、「コメ農家の時給は10円」などという言説がいまだにまかり通っていることに、あきれるほかはない。
コメ農家の「時給10円」という大間違いの情報を最初に記事にしたのは、24年9月9日付けの朝日新聞だ。「コメ農家の所得はわずか年1万円 米不足の裏で統計が示す生産地の苦境」(見出し)という記事を掲載した。
朝日新聞がもとにした「農林水産省が公表している農業経営の統計(営農類型別経営統計)によると、主に水田で耕作している農家の農業所得の平均は、21、22年(令和3年、4年)と2年続けて1万円となった。」と書いている。
データ(数字)の引用じたいは正しい。こから先が問題で、記者は「ちなみに農業に費やした労働時間の平均は1,000時間ほどで、『時給』に換算すると10円になってしまう。」と書く。
ふつうにいえば、時給は、収入を、それを稼ぐのにかかった労働時間で割った金額である。上の表がしめすように令和4年(2022年)の作物収入は258万円。平均的なコメ農家の耕作面積は2.8ヘクタールなので労働時間は600時間ほどになる。(別の統計「コメ生産費」による)
258万円を600時間で割ると、時給は4,300円になる。1,000時間としても2580円になる。結構な時給である。
どうやら、朝日新聞記者は「所得」=「収入」と誤解しているらしいのだ。(サラリーマン記者だからわからないのだろう。デイリー新潮はたぶん、もとの統計にあたっていない。)
平均の所得が1万円だから、「赤字」の農家がいるのは確かである。ただし、赤字になった場合は、年金や兼業収入にかかる所得税、住民税が軽減されることになる。
いまの高米価でも「赤字」なら、後継者難もやむを得ないというべきで、黒字の大規模農家に水田を貸して、賃料を受け取る方がいい。確実に現金収入は増える。
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コメ農家の「時給」を別の農水省統計でみてみる。
上の図=農林水産統計「令和5年産 米生産費」によると、コメ生産費(10アールあたり)の内訳で「労働費」として3万4,400円が計上されている。同じ統計によると、10アール当たりの労働時間は21.8時間で、時給にすると、1,577円となる。
(所得1万円の令和4年産米で同様の計算をすると1,549円だ)