英トラス首相にポンド急落の試練 大型減税/国債増発が売り招く
英中央銀行・イングランド銀行は28日、通貨ポンドの安定をはかるため、一時的に長期国債を買い入れると発表した。英国ではトラス新首相が打ち出した国債増発を伴う大型減税策が英国の財政悪化を招くとの懸念からポンドが急落し、26日の外国為替市場で、一時1ポンド=1・03ドル台の過去最安値をつけた。
買い入れ期間は10月14日までで、必要な規模で国債を買い入れるとしている。
トラス首相の支持率は低下しており、早くも政権の先行きに暗雲が立ちこめている。
トラス政権が打ち出した減税は比較的所得の高い層を対象にしたもので、15万ポンド(約2300万円)を超える高額所得者に課される45%の課税区分を来年度から廃止、最高税率を40%に下げる。来年4月から実施の予定だった法人税の引きあげも止めることにした。
不動産購入時に必要な印紙税を引き下げる。高すぎると批判のある銀行員の賞与に上限を設ける予定だったが、これも取りやめる。
インフレ対策では、高騰したエネルギー価格抑制のために補助金を出すことにしているが、必要な財源は半年で約600億ポンド(約9兆円)になるといわれる。財政悪化がポンド安につながれば、輸入物価が上昇し、補助の効果を帳消しにする可能性がある。(英国の経常収支は赤字となっている。)
減税の財源は国債増発で、クワーティングィング財務相は26日に減税案などを発表した際、今年度(2023年3月まで)の国債発行額は2341億ポンドと前の計画から724億ポンド増額になると発表した。これが9月初めから進んでいたポンド安に拍車をかけ一気に下落した。
英国ロンドンは一大国際金融センターで、世界の銀行、証券、保険会社が拠点をおき、コンサルタントや法務まで含めると英国の雇用の8%をしめるという。トラス首相の大型減税策のねらいは、金融業界に多い高額所得層の減税により、消費や不動産取引が活発化し、中低所得層にもカネがまわっていく「トリクルダウン効果」にあったといわれる。
今回のポンド下落ではロンドンを拠点に置く「金融投機筋」が容赦なくポンドを売ったとみられる。トラス首相は、今となっては遅いが、減税の対象から金融業界をのぞくべきだった。
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