コメ値上がりの根底に潜む コメ農家の廃業 水田の減少 高齢、後継者難で供給力減退
農水省資料コメの消費、生産をめぐる近年の動向より
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/240305/attach/pdf/240305-15.pdf
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コメの値上がりや、一部のスーパー・小売店での品切れがテレビや新聞で報じられている。農水省は9月には新米が流通するので、コメの品薄、価格高騰は解消されると言っている。
今年のコメ不足をクリアしても、需給ひっ迫の根底には、コメ農家の高齢化・後継者難、廃業増加による供給力の低下がある。来年以降もコメ需給は綱渡りが続くだろう。
コメ需要(消費)は、高齢化や人口減少で、年に10万トン程度減っている。コメをたくさん食べていた昭和前半生まれが、高齢化を迎え、あまり食べなくなった。その後には、コメ離れ世代が続く。
コメの供給(生産)に目をむけると、コメ農家の高齢化が急速に進んでおり、後継者がおらず、廃業する農家も多い。(ほかの農家や農業法人にコメ作りを委託する道もあるが、一部にとどまる。)
実際、コメ農家の廃業によって、水田面積は毎年、減っており、2023年は前の年に比べて1万7000ヘクタール減っている。首都圏でもちょっと山間地に行けば、かつて水田だったところに雑草が生えているのを見かける。いわゆる耕作放棄地である。
コメは、1ヘクタールあたり平均で5.3トン取れる。ざっと計算すると、水田の減少によって23年のコメ供給量は9万トン減ることになる。(数値は農水省の資料による)
需要と供給が両建てで減り、縮小均衡状態にあるのが日本のコメの現状だ。
いま起きているコメ需給のひっ迫と、それに伴う値上がりは、23年7月から24年6月のコメ需要が702万トンになり、22年/23年の同期間の実績(691万トン)から11万トンも上振れしたからだ。コメ需要が増えたのは実に10年ぶりである。(農水省の資料による)
23年の主食向けのコメ生産量は661万トンで、23年産米だけでみれば、需要に対して41万トンも足りなかったことになる。これを埋めたのが、流通在庫で6月末の時点で昨年から41万トン減っている。(偶然の一致ではなくて、コメの余剰と不足は在庫の増減で調整される)
想定外の需要増はなぜ起きたのか。農水省は①小麦の国際価格の上昇や、為替円安で、パンや麺類の価格が上がり、割安感のでたコメの需要が増えた。
②訪日外国人(インバウンド)旅客数が前年の2倍位上に増加し、その分コメの消費が増えた、と説明している。(くわしくは後述)
このふたつの要因以外に、7月ごろからテレビで、コメがスーパーなどの店頭で品薄になっているとが伝えられ、消費者の買いだめがあったともいわれている。南海トラフ地震臨時情報が出され、コメの家庭備蓄も増えたようだ。)
農水省は、これから24年産米の出荷が本格化するので、「品薄は次第に解消する」と言っている。
農水省は23年/24年の需要増は一過性で、長期的にはコメの需要は減り続けるとの見方を変えていない。その証拠?に24年7月/25年6月のコメ需要は673万トンと前年同期から29万トンも減ると見込んでいる。
農水省は、家庭の買いだめが20万トン程度あるとみているようだ。あるいは、コメの供給を増やそうにも増やせないので、需要を低く見込んで辻つま合わせをした可能性がある。
コメの生産調整、いわゆる「減反制度」があったころなら、コメ不足は減反のやり過ぎ、失敗という批判を受けただろうが、2018年度をもって「減反」は廃止され、コメをどのくらい作るかは農家の自主的な判断にまかされることになった。
コメの値上がりで、コメ農家(農業法人)の増産意欲が強まれば、25年のコメの作付けが増え、需給ひっ迫が解消され、価格が下るというのがグッドシナリオである。
ただし、供給面では、最初に書いたように、コメ農家の高齢化という壁が大きく立ちはだかる。小規模(1ヘクタール以下)コメ農家の働き手年齢は70歳代がもっとも多いという現実もある。(これは2020年の統計なので、より高齢化は進んでいる。)作りたくても作れないという農家もあるのではないか。
消費者は、コメが食べられなければ、パンや麺類、粉ものをコメの代わりに食べることになる。第二のコメ離れである。
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インバウンド旅行客のコメ消費について。
インバウンドは、今年7月までで2,000万人を突破した。日本政府観光局(JNTO)によると、インバウンドの8割が旅行で期待することに「日本食を食べられる」ことをあげている。
平均で7泊程度の滞在だが、その間、日本人平均と同程度(1日140グラム)のコメを食べるとすると、筆者の推計で、1月~7月の間に2万トンのコメを食べたことになる。日本人の平均は赤ん坊から老人まで含まれている。インバウンドは大人が多いので、倍食べるとすると、4万トンになる。
インバウンドは富裕層(ゆとりのある人)が多く、食べるコメも比較的、高価格帯のものだと思われる。23年産産米は高温障害で、一等米比率が例年になく低かった。高品質のコメが少ないところに、インバウンドの需要が加わって、より末端価格が高くなり、品質の低いコメも価格が上がったのではないか。
なお、一等米、二等米の違いは、粒がそろっていることや、割れ米がないこと、着色米がないことで、食味、つまりうまいかどうかは判定条件に入っていない。
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