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福島原発 「想定外」で思考停止の最高裁判決 東電が造らなかった防潮堤「 国に責任なし」

(YOU TUBE JNNアーカイブより [3.11]巨大な津波が押し寄せる福島第一原発【JNNアーカイブ 311あの日の記録】 - YouTube


東京電力が2011年3月11日の東日本大震災の際に、大津波に福島第一原発が襲われる映像を公開したのは、発生して1か月ほど後のことだった。原発の排気筒と思われる高い構造物まで激しく打ち寄せる大津波は衝撃であった。


福島原発には津波を防ぐための防潮堤がなく、津波は敷地内に押し寄せ、高さ5m以上まで浸水した。緊急用の非常電源(ディーゼル発電)は地下にあったため、短時間で使えなくなった。原子炉の緊急冷却が機能せずに次々にメルトダウンし、放射性廃棄物が飛散、周辺住民は長期避難を余儀なくされることになった。


原発事故で被害を受けた住民らが、国を相手取り「国が東電に対して防潮堤の建設や建屋の浸水対策など、津波対策を命じなかったことが原発事故につながった」として、損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は17日、国の責任を認めない(東京電力にはある)判決を言い渡した。


筆者が驚いたのは国に責任がないとする「判決」そのものよりも、判決理由だ。「国が防潮堤を作らせたとしても、津波は想定より大規模で、東電の計画していた(低い)防潮堤では事故は防げなかった」というのだ。


最高裁判所の判決は国にとってありがたいことだ。必要な措置(防潮堤の設置命令)を出さなくても、「造っていたとしても事故は防げなかったから」ということで、免責されてしまったのである。


ここで言っておきたいのは、防潮堤建設の議論は、2002年に国が公表した地震予測「長期評価」に基づいていることだ。東日本大震災の9年前である。


その間、国も東電も津波については何の対策もとらず、防潮堤も造らないまま、津波と震災に襲われることになった。


東京電力にかぎらず、原発事業者には東日本大震災までは、電力自由化に向けて、原発の発電コストを「上げたくない」という、「願望」があった。(表向きには言わない。)巨大な防潮堤などは造りたくない最たるものだったのだ。


万一の時に備えて、コスト高になる防潮堤を造らせるのは、国の強い指導か、命令しかないといっていい。


なぜ、9年の長きにわたって防潮堤建設が顧みられなかったのか。東電でさえ「もっと大きい津波が来るのでムダだと思っていました」とは言わないだろう。それを、言っているのが最高裁というまさにジョークの世界だ。


国の責任をめぐるいくつかの高裁判決は、国は防潮堤建設に加えて、浸水があったときに備えて、建屋の水密性を確保する措置を取るよう電力会社に命令(指導)するべきだったと指摘している。


最高裁判決はこれらの点について、「重要施設の水密性確保などは事故後にわかったことだ」とほとんど一蹴している。(結果論で防潮堤を作っても役に立たないと言っているのに、ここではまた逆方向に結果論を使っている。こういう使い分けが法律家というものなのだろう)


福島原発は米国の原子力発電所をお手本に造られた。非常用電源が地下にあるのも、米国ではハリケーン対策のため非常用電源が地下に置かれた、基本設計をそのまま日本に持ち込んだからだ。


福島原発では過去に水漏れ事故で非常用電源が水没する事故が起こり、地下に非常用電源を置いておくことのリスクが指摘されたこともあるという。


今回の判決の中には、「海外でも(津波対策で)水密化の措置を取った事例はない」との言及もある。


日本は地学的にみて地震、津波の頻度が高く、ほとんどの原子炉が冷却水をえやすい、海岸近くに立地する。


海外の大陸に立地する原発は、そもそも地震・津波の頻度が高くはない。内陸に位置し、河川や湖沼のほとりに立地するケースもあり、津波は日本と違ってほとんど心配しなくていいと思われる。


最高裁の判決は、上記のような日本特有の事情を顧慮せず、他国にもそのような事例(建屋の水密化措置)がないといっている。


本来、国(政府)は日本の特質を考えた上で、最善と考える規制策を電力会社にとらせる必要があったと考えるが、最高裁はそうは考えていないようだ。


今回の判決は裁判官4人のうち3人の多数意見で、1人検察官出身の三浦守裁判官が次のような反対意見を述べている。


「津波予測をもとに国と東電が法令に従って真摯な検討をしていれば事故は防げた可能性が高い。多重防護を考えれば浸水に対する水密化措置も取りえた。想定外と言うことばを免責の理由にするべきではない」。


反対意見の方がしっくりくる人は多いのではないだろうか。


今回の最高裁判決は、津波対策として防潮堤の必要性をみとめながら、結果的に想定外の大きな津波がきて、計画した防潮堤では役に立たなかった。ゆえに防潮堤の建設を命じなかった国の責任はない、といっている。


繰り返しになるが、なかなか理解しがたい判決である。

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