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黒田日銀がヘッジファンドに負けた日 1年前の転換点を振り返る 金利カーブの歪みは限界だった

前日銀総裁の黒田東彦氏
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2022年12月20日、日本銀行は政策決定決定会合2日目に、長期金利(10年もの国債利回り)の変動幅の上限を0.25%から0.50%へと引き上げた。この日は先々、当時総裁だった黒田東彦氏がヘッジ・ファンドに負けた日として記憶されるだろう。


海外のヘッジ・ファンドは2023年6月ごろから、日銀が超金融緩和政策を修正すると見込んだ、日本国債先物の「売り」(ショート)を組み込んだ運用戦略をとっていることを公言していた。(英国のブルーベイアセットマネジメントの幹部は日経新聞のインタビューに応じている。)


12月20日の上限引き上げで、巨額の利益を上げた(であろう)海外の投資マネジャーは「日銀から大きなクリスマスプレゼントをもらった」と外国通信社に語っている。
ブルーベイやUBSアセット、勝ち組に-日銀が予想外の政策調整 - Bloomberg


ヘッジファンドはしばしば投機筋と金融当局から呼ばれるが、単なる見込みだけで上限金利引き上げに賭けていたわけではない。彼らは、日銀が金利カーブ(イールドカーブ)の歪みを是正するため、上限金利0.25%を引き上げに引き上げざるをえないと見ていたのだ。


それはなぜか。金利カーブの歪みで、国債の主力商品である10年もの国債の発行が難しくなっていたのだ。


新規発行する国債は、政府公認の証券会社、投資銀行、銀行がプライマリーディラーとして最初に購入する(引き受ける)。引き受けた国債をほかの銀行、証券、保険会社などの金融機関に売り切るとして、価格変動による損を回避したいと考えるのはふつうである。


そのために使うのが10年物国債先物だ。国債先物が高い(金利=利回りが低い)ときに売っておけばいい。


先物の決済は3ヵ月ごとに来る。現物国債の価格は10年もの「先物価格」と連動するが、期限に向けて等価(同利回り)に収束する。決済は先物の反対売買(買った側は決済価格で売る、売っていた側は買い戻す)で差金決済するか、現物国債を引き渡すことで行う。(現物国債と先物価格は等価になっている)


日銀は国債先物取引はしないので、先物をヘッジに使った金融機関は日銀の買いオペに応じて、決済することになる。そのときに使う現物国債は「チーペスト銘柄」と呼ばれる、残存期間7年物の国債だ。(引き渡し銘柄は残存期間7年物から11年物国債から「売る側」が選べるが、理論上、チーペスト銘柄は残存期間の短い7年ものとなる。)


そのとき問題になるのが、金利カーブのゆがみだ。日銀が短期から長期の国債金利を抑えるために国債を買いすぎて市場にある(金融機関が保有する)チーペスト銘柄が枯渇し、チーペストが「最安」でなく割高になってしまったのだ。


1年ものから10年もの国債まで、金利カーブをコントロールしようとする日銀の異次元金融緩和の行き詰まりである。


安倍晋三元首相は生前、「日銀は政府の子会社で、国債をいくら増発しても借り換えしていけば、何の問題はない」と話していた。そうはいかなくなっていたのだ。


安倍氏が金利カーブのゆがみがもたらす弊害を理解してなかったのは、ありうることだが、黒田東彦総裁はどうだったのか。


黒田氏は東大法学部卒で大蔵財務官まで務めた、大蔵官僚エリートだ。黒田氏は12月20日の記者会見で、金利カーブのゆがみが自然発生的に起きたように言ったが、「ゆがみ」は黒田総裁がすすめた「異次元の金融緩和」が生みだしたものにほかならず、原因と結果をすり替える「ごまかし話法」と言うほかはない。


さて、話をいまに戻せば、長期金利は足元では0.656%となっている。(財務省の国債金利情報による)日銀は昨年10月30日に長期金利の上限の「メド」を1.0%とした。ただし1.0%を超えても黒田・日銀のように無制限買いオペで上限を固守することはしないと言っている。


日銀は10年もの国債の金利を市場にゆだねたともいえる。金融政策の正常化に向けた日銀の次の一手は短期金利マイナス0.1%の解除になるかどうかが注目されている。


週明け22日、23日の金融政策決定会合が開かれるが、政策金利とする長期金利が落ちついている現状で、意義は薄れているが短期のマイナス金利をやめることはないと筆者はみている。


仮にマイナス金利をやめてゼロ金利に戻しても、景気を冷やすようなことはないだろう。ただし、黒田日銀時代に低金利に慣らされた国民に金融引き締めと受けとられるのは避ける必要があり、それには金利を忘れた国民に説明が必要だ。


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国債先物は額面100円、金利(クーポン)6%という高金利時代の国債を「原資産」としている。この金利が現実の長期金利(足元で0.656%)に連動するため、金利の変動が増幅されて、先物価格に反映することとなる。額面100円が140円台で取引されているのはそのためだ。


昨年12月20日には、日銀は上記のように長期金利上限を0.25%から0.5%に上げたが、長期国債先物は148円から145円に下げた。昨年11月には150円程度で取引されていた。150円のとき150億円売り立てていた投資家は、145億円で買い戻せば、5億円の差益が出る。

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